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ゲームの難易度設定とスタッフ育成は似ているのか

人は【適切にデザインされた困難】を乗り越えて成長する

「難易度設定」と聞くと、多くの人はゲームの話を想像するだろう。しかしこの概念はゲームの世界だけに存在するものではない。むしろ人間の成長、特に”スタッフ育成”という極めて現実的な現場は、シビアに難易度調整の影響を最も強く受ける領域のひとつだ。

私は介護施設での管理者というマネージャーのような立場上、スタッフ育成のマネジメントにも携わる部分であり、たくさんのスタッフのマネジメントをおこなってきた。今回、そのマネジメントとゲームの難易度設定って似てへん?というお話である。

おおよその人は困難に直面して色々鍛えられるが、過剰な困難は心をへし折ってくる。困難を与えすぎて”理不尽”にならないように気をつける必要がある。これはゲーム開発者も、上司も、教育者も、全てが知っておかなければならない絶対法則である。では、なぜゲームの難易度設定と現実のスタッフ育成はこれほどまでに似ているのか、その構造を深く掘り下げていく。

“チュートリアルの不備”は離職の最大原因

所謂、ソウルライクのような”高難易度のゲーム”で一番多い離脱理由は「何をしていいか分からないまま死ぬ」ことである。一部のゲーマーにとってはそれが逆に味わい深く、意欲を刺激されることもあるだろうが、現実の話となればそう思うような人間は極めて少ない。育成現場に置き換えてみよう。

新人のチュートリアルにおいて、

こうなると、新人の心は”初見殺し”の連続攻撃を受ける。ゲームにおけるチュートリアルの役目は1つ、「これをやれれば死なないよ」という最低限の知識を与えることであり、無理に最初からガチ勢の動きを覚える必要はない。

スタッフ育成も同じで、最初に”生き残り方”を教えなければ、能力以前に心が折れてしまう。このチュートリアルの質というところは、ゲームならユーザーレビューに反映され、現場では離職率として跳ね返ってくる。

理不尽ではなく“狙って配置された壁”によって進化する

ゲームデザインにはフロー理論がある。難しすぎると不安になり、簡単すぎると退屈になる。人間が最も成長し、最も没頭できるのは”頑張ればギリギリ届くライン”にある。スタッフ育成でもまったく同じことが起きる。

簡単な仕事ばかり任されると人は「自分は成長していない」と感じる。逆にいきなり複雑な業務を振られると「自分には向いていない」と決めつけてしまう。適切な育成難易度とは”この人が1歩踏み出せば届くギリギリのライン”を設計することだ。このようにスタッフへのマネジメントは、ゲームバランス調整そのものである。

たまに新人にいきなり高難度クエスト渡す人もいるが、あれ完全に「初期装備でラスボス行ってこい」って言っているのと同じ。そりゃゲームオーバー率も高くなる…

成長に不可欠なのは”安全に失敗できる環境”

ゲームでは失敗するたびにプレイヤーは学んでいく。攻撃パターン、行動順序、距離感、使うべきアイテム。失敗は攻略情報そのものであり経験値だ。しかし現実ではどうか。

新人がミスした瞬間、責められ、呆れられ、「何度言ったら分かるの?」と言われればどうだ。このような文化が根づくと、成長速度は一瞬でゼロになる。成長していくには“失敗を恐れずに試せる心理的安全性”が担保されている環境が不可欠である。

ゲームにはセーブポイントがあり、すぐにやり直す自由がある。現場においてのセーブポイントとは、すぐ相談できる上司や先輩、ミスを笑い飛ばせる雰囲気、”責める”ではなく”振り返る”文化であると感じている。これらがない現場は、デスペナルティが重いゲームと同じでプレイヤーが育つ前に辞めてしまう。

個人的に失敗を許せない上司は”味方NPCなのに誤射してくるやつ”と同じ。味方に撃たれて成長するプレイヤーはいない。せめて回復アイテムぐらい投げてほしいところだ。

難易度は”一律”ではなく、”個別最適化”が正解

ゲームのプレイヤーがそれぞれ違うように、スタッフもまた能力・経験・気質がすべて異なる。つまり育成難易度を「新人だからこのメニュー」と固定するのはナンセンス。

強みと弱みが違えば最適難易度も違う。ゲームではプレイヤーに合わせて武器・ビルド・戦う距離が変わるように育成でもその人に合う攻略法を作る必要がある。ビルド無視して筋力1の魔術師に特大武器担がせてたら、そりゃモーションすら出すことができず、詰み確定である。

“やりがい”は報酬系の設計によって生まれる

ゲームでプレイヤーがやる気を失う最大の原因は「報酬が見えない」ことである。スタッフも同じだ。やっても評価されない、給料に反映されない、感謝もされない、スキルが上がった実感がないといったことはモチベーションを凍らせる。

ゲームでは、レベルアップ、アイテム獲得、ストーリー進行など”成長の可視化”が常に用意されている。現場での報酬系とは、小さくても気づいた成長を口に出して伝える、具体的に褒める、できるようになったことを一緒に確認するなどが報酬となるのではないだろうか。報酬の設計がなければ、育成は絶対に成功しない。

難易度調整に失敗すると、離職という”ゲームオーバー”が訪れる

難易度が高すぎると心が折れ、低すぎると飽き、このようにバランスが悪いとプレイヤーは離脱する。これはゲームも現場も変わらない。ゲームでの離脱理由としては「難しすぎた」「つまらなすぎた」「報酬が見えなかった」「誰とも協力できなかった」とすれば、スタッフの離職理由は「業務が難しすぎた」「単調すぎた」「評価されず、成果が見えない」「馴染めなかった」といった感じだろう。

離職は「その人に合った難易度を設定できなかった結果」として見える側面がある。逆に言えば、難易度設計がうまい現場は、驚くほど離職率が低い。離職が続く職場は大体”新人だけ常時ハードモード”になってしまっていて、説明不足、相談しづらい、先輩はレイド中で忙しいといった状態。詰む設計のステージはプレイヤーより先に環境を修正すべきである。

マネージャーは”ゲームマスター”である

結局、難易度設定とは「人を育てるためのデザイン」であり、育成とは「人が成長できる物語をつくること」である。ゲームにおいて、プレイヤーが最も輝くのは”自分の力量に合ったダンジョン”に挑んでいる瞬間だ。弱すぎれば退屈し、強すぎれば心が折れる。現場も同じで、メンバーが”今のレベルでクリア可能なステージ”を用意できるかどうかが、成長曲線を大きく左右する。

だから人を扱うマネージャーは、常にゲームマスターの視点で世界を設計しなければならない。この人はどの段階のクエストが適切か、どこにセーブポイントを置くべきか、今はボス戦なのか、レベリングなのか、そもそもゲームのルールが伝わっているか──

こうして見ると、マネージャーの仕事はただ人を動かすことではない。マップを作成してクエストを配置、NPC(上司・先輩)との関わり方までデザインし、時には隠しアイテムのように”本人が気づかない成長ポイント”を仕込む──プレイヤーが挫折せず、かつ飽きず、物語の主人公としてレベルアップしていける世界を作ること。それこそがマネージャーの最も重要な役割となる。

まとめ

難易度設定とスタッフ育成は、もはや「似ている」どころの話ではない。両者はほぼ同じ構造で動いており、人の成長は”適切にデザインされた困難”によってのみ生まれる。ゲームが良質なバランス調整によってプレイヤーを夢中にさせるように、現場の育成もまた、挑戦したくなる課題・ちょうどよい負荷・努力が報われる仕組みがなければ、人はレベルアップしない。

ゲームにはすべからく「うまくつくられた余白」が存在する。攻略の糸口を自分で見つけられるようなヒント、失敗しても再挑戦できるセーブポイント、そして時には”強敵だが乗り越えれば世界が変わる”ボス戦。これらの設計がプレイヤーを成長させる。同じように現場でも、人が挑戦し、躓きながらも前進し、自分の力で突破したと感じられる余白こそが、育成のエンジンになる。

そして、マネージャーの役割とは、その余白を見極めて調整し物語として編み直す仕事である。今のレベルで無理なく挑めるクエストか、成功体験を残せるセーブポイントが用意されているか、スキル不足で戦わせていないか、逆に簡単すぎて退屈させていないか、今の”章”にふさわしい試練が設定できているか──

こうした判断を毎日、スタッフの表情や行動や声色から読み取って微調整していく。それはまさにゲーム開発における”難易度修正パッチ”のような作業である。少し強すぎる敵は弱体化し、逆に簡単すぎるステージにはギミックを追加する。その目的はただ一つで「やっぱつれぇわ…」「心が折れそうだ…」とプレイヤーには言わせず、物語から脱落させずに最後まで自分の足で歩けるようにすること。

…今日も裏で修正パッチをあてまくるぜ。全国のゲーマー兼マネージャーにサチアレ。

ぐみお

「暮らしにゲームを」をモットーに死ぬまでゆるーく楽しくゲームを遊べるような人生を送りたいなぁーなんて思っている人間です。三度の飯よりもゲーム好きで生粋の関西人のあんちゃんです。

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